第二十六話
夜が明けても、森は薄暗かった。空には薄い雲が張って、日の在り処は、明るみでしか分からなかった。火は、灰の下に赤く残っていた。枝を足すと、じきに立ち直った。
兎の包みは、夜のあいだ、根方の枝に吊るしてあった。下ろすと、石のように固く凍っていた。凍っているほうが、保つ。
罠を見にいくと、輪は空だった。獣の道に、新しい足あともなかった。夜のうちの雪が、細い窪みをうすく埋めていた。輪をほどいて、紐を荷へ戻した。指は、ゆうべより早く動いた。
朝は、湯だけにした。熱いのを、ゆっくり二杯飲んだ。湯には、ゆうべの汁の味が、うすく残っていた。発つまえの火の始末は、きのうと同じにした。燃えさしも、同じに残した。
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昼まえから、雪になった。乾いた、軽い雪だった。積もるそばから、風にすこし流れた。肩や荷に薄く積もるのを、ときどき手で払った。
新しい雪は、目の頼りを消した。かわりに、足の裏が覚えていた。かんじきの下の音が固いあいだは、道の上にいた。音がやわらかくなると、半歩戻して、探し直した。ためしに道を外れてみると、かんじきは深く沈んだ。道の上と外で、雪は別ものだった。
昼をすぎたころ、左手の斜面から、別の芯が下りてきた。はじめは獣の道かと思った。しゃがんで雪を払うと、下から同じ固さが出た。ふたつの芯は、ゆるく寄り合って、ひとつになった。合わさった先は、固く、幅もあった。踏んだ足の数が、違うのだった。
見わたしても、人はいない。煙も、ない。雪だけが降っていた。少年は歩調を変えなかった。
午後は、合わさった芯の上を行った。道は木立の高いあいだを抜けて、ゆるい下りにかかった。雪は、いちどやんで、また降った。日は、雲のうしろを回っていった。
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暮れるまえに、雪はやんだ。雲が割れて、西がしばらく赤かった。木々の影が、雪の上に長く倒れた。
野営の場所は、迷わずに決まった。芯からすこし外れた、木の根方だった。風のない側に雪を積むのも、枝を組むのも、手が先に動いた。枯れ枝は立ち枯れから折り、湿ったものは火のそばに並べた。三度目の野営は、いちばん早く済んだ。
罠も、掛けた。藪ぎわに獣の道を探すと、ゆうべのよりいい道が見つかった。縁の立った足あとが、いくつも重なっていた。輪の高さは、もう迷わなかった。結び目を指で確かめ、半歩下がって見た。それで、終いだった。
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晩は、鍋に雪を溶かして、兎の肉と、干し肉をひとかけ、松の内皮も入れて煮た。三つを一緒に煮るのは、はじめてだった。汁は、これまでのどの晩より濃かった。熱が、腹の底まで届いた。松の香りは、もう鼻になじんでいた。
食べたあとで、干し肉の包みを開いて、残りを目で見た。包みには、まだ厚みがあった。塩の袋は、手のひらで計った。軽くは、なっていた。振ると、音が乾いていた。荷へ戻すとき、いちばん上は、手紙のままだ。
兎の残りは、包み直して、また枝に吊るした。皮は、ゆうべにつづけて、火のそばで乾かした。すこし硬く、縮んだ。乾かし方までは、教わらなかった。手を動かして、覚えるしかなかった。
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夜は、晴れた。木々の裂け目に、星が出た。冷えは、ゆうべより深かった。遠くで、木の鳴る音がした。
火を小さくして、少年は横になった。
『今夜も』
(はい)
夜中に一度、目が覚めて、枝を足した。手が、暗がりでも枝の置き場を知っていた。
火は、この夜も朝まで保った。
(第二十六話 了)