第二十五話

W A T A R I   N O   S H O N E N

日が低くなると、雪の色が変わる。青くなって、それから急に暗くなる。少年はそのまえに、火の場所を決めた。

一日、誰にも会わない道だった。道からすこし外れた、木の根方を選んだ。根方の雪は浅かった。風のない側に雪を積み、枝を組んで、火を入れた。枯れ枝は、立ち枯れから折った。湿ったものは、火のそばに並べて乾かした。支度の順は、手が覚えている。

荷袋は、根方の乾いた側に置いた。いちばん上は、手紙のままだ。

暮れのうちに、罠をひとつ掛けた。野営の裏手の藪ぎわに、獣の細い道があった。足跡は今朝のものらしく、縁がまだ立っていた。輪は、雪の面から高くに吊るした。結び目を、指で確かめた。掛け終えて、半歩下がって見た。

晩は、雪を溶かした湯で、干し肉を一切れ煮た。松の内皮も、ひとかけ入れた。煮ると、肉はすこしやわらかく戻った。汁から、あの家の煙の匂いが立った。塩も、効いていた。

夜は、冷えた。

森は静かだった。ときどき、雪が枝から落ちる音がした。闇の奥で、木の鳴ることがあった。凍てが幹を裂く音だと、いつかの旅で覚えた。音がしても、火の輪の中は変わらなかった。

少年は寝るまえに、太い枝を一本、火に足した。横になると、火の明かりが雪の壁にゆれて、その向こうは、すぐ闇だった。

『火、見ててくれるか』

(見ることは、できます。手は、ありません)

『いい。見てて』

少年は答えを聞いてから、目を閉じた。眠りは、すぐに来た。夜中に一度、目が覚めた。火は小さくなって、まだ生きていた。枝を足して、また眠った。

朝は、白く凍てていた。空は晴れて、木々の影が雪に長かった。

少年は火に枝を足してから、罠を見にいった。夜のあいだに、雪がうすく積もっていた。足あとは、ゆうべの自分のものだけだった。

輪に、兎が掛かっていた。もう、動かなかった。夜のうちに掛かって、そのまま凍てたのだった。若い兎で、冬毛が白かった。手の中で、思ったより軽かった。

輪から外して、火から離れた雪の上で始末をした。外す指が、朝の冷えでこわばった。教わった順のとおりに、手を動かした。長くは、かからなかった。皮は丸めて、兎と一緒に布へ包んだ。内臓のいくつかは、雪の上に残した。鳥の分だった。立ち去るとき、後ろで羽の音がした。

雪に、すこし色が移った。それだけだった。

包みは、荷袋に入れた。手紙の、下だった。

発つまえに、火の燃え残りを雪で消した。かけた雪の下から、細い湯気がしばらく立った。燃えさしの枝は、岩の陰に立てかけた。次に来る誰かの分だった。

昼の道は、木立のあいだを縫って、ゆるく登っていった。日は、背中にあった。

しばらく行くと、かんじきの下の音が変わった。しゃがんで、雪を手で払ってみた。新しい雪の下から、氷のように固い面が出た。長く踏まれた道だけが持つ、固さだった。芯は切れては、また続いた。

見わたしても、人はいない。煙も、ない。少年は歩調を変えなかった。芯の固さだけが、足の下をついてきた。

暮れるまえに、また輪をひとつ掛けた。藪ぎわの細い道は、ここにもあった。今度は、手が高さを覚えていた。

野営の支度は、きのうより早く済んだ。その晩の根方は、風がゆうべより弱かった。晩は、兎の肉をすこし、汁に入れた。自分の輪で得た、はじめての糧だった。干し肉の包みは、そのぶん先まで保つ。皮は、火のそばで乾かした。

夜、火を小さくしてから、少年は横になった。星は、ゆうべより多かった。

『今夜も、見てて』

(はい)

火は、朝まで保った。

(第二十五話 了)

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